研究内容

腸管寄生虫と宿主間の相互作用の解析

 今の日本には寄生虫感染によって栄養失調になっている子供はいません。きれい好きな国民性と教育、衛生環境の改善などによって、かつての土壌媒介性腸管寄生虫症はほとんどなくなりました。けれども、飛行機で数時間のところでは、依然として多くの人々が寄生虫症に罹っています。
人や動物の身体には免疫系が備わっており、外来性の異物を排除し、恒常性を維持しています。病原体による感染はこの免疫応答によって終息し、再感染に対しても発症しなかったり軽く済んだりしますが、多くの寄生虫症は慢性感染し、再感染してしまいます。なぜ、免疫系が作用しえないのか?どのようにして寄生虫は免疫応答を回避しているのか?これらの疑問が、研究テーマのベースになっています。 実験では主にラットやマウスを用います。寄生虫と宿主の相互作用にはいろいろな因子が関与しているので、個体としての観察が大切となります。個体として見えてきた現象をシャーレ内で確かめることもあります。腸管寄生虫は、腸管粘膜上皮を覆っている粘液の中にいますので、粘液内成分に腸管からの排除を促す因子があるはずです。腸管粘液の主成分はムチンという高分子量の糖タンパク質です。この糖鎖部分が感染によって変化することがわかってきました。現在、この変化が寄生虫の排除に関わっているのかを解析しています。一方、慢性に感染しつづける機序にも興味を持っています。感染した寄生虫が人や動物の免疫系に働きかけて、長く寄生し続けられる環境を形成しているのではないかと考えられていますが、ほとんどわかっていません。最近明らかとなった免疫機構の知見と新しい解析方法を駆使して、この点も明らかにします。(写真:ネズミの寄生虫Nippostrongylus brasiliensisの雄と雌)