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研究内容

蚊の中腸をモデルとした力覚による腸組織の再編成の解析

生物の腸管は、食物の運搬や消化・吸収といった生命維持活動の中心的な役割を担う一方で、その過程で、細胞の内外から多様な機械的刺激にさらされています。例えば、腸管の運動によって上皮細胞は、伸展・圧縮・曲げといった力学的変形を受けます。また、食物や消化液が通過する際には、絨毛に対する物理的刺激も加わります。しかし、こうした力学的刺激に対して腸管上皮細胞が何を感知し、どのような情報処理を経て、機能的な変化や修復を行っているのかについては、いまだ多くの謎が残されています。
 私たちは、腸管に加わる機械的な力が、腸組織の構造や機能をどのように秩序づけているのかを明らかにすることを目的に、吸血性節足動物である蚊の腸管(中腸)に着目して研究を進めています。蚊は、わずか2分間の吸血によって、自身の体重と同等かそれ以上の量の血液を摂取し、唯一の流入先である中腸は約20倍もの体積へと拡張します。先行研究では、吸血直後の中腸において、上皮細胞の扁平化や基底膜の断裂といった構造的損傷が生じることが示されていますが、これらは一過性であり、次の吸血が可能となる72時間後には、中腸の構造はほぼ回復していることが示唆されています。

 このように、中腸は吸血に伴う急激な伸展とその後の収縮を通じて、自らを段階的に再構築する「動的な秩序化システム」として機能していると考えられます。一方で、吸血によって中腸細胞に加わる機械的刺激の実体や、それに対する応答機構、さらには中腸構造やその周囲の微小環境の再編成プロセス(中腸リモデリング)については、依然として十分に理解されていません。そこで私たちは、蚊が飽血に至るまでの中腸の動的変化と、それに続くリモデリング過程に注目し、吸血依存的な力覚応答の全体像を解明することを目指しています。(写真:上が吸血前、下が吸血後の中腸上皮。厚さの違いが見られる。)